
冬の訪れとともに、感染症対策の重要性が一段と高まる季節になりました。インフルエンザやノロウイルスといった代表的な冬季流行性の感染症は、低温・低湿度の環境で生存時間が延びやすく、施設内や公共空間での拡散リスクが増加します。さらに、窓を閉めて暖房を使用する冬特有の環境は、換気不足や人の密集を招き、飛沫感染・接触感染・経口感染といった複数の経路が重なりやすくなります。
この季節は「通常の清掃」や「日常的な衛生管理」だけでは十分ではありません。手指衛生の徹底、環境清拭の質向上、そして嘔吐物や体液への迅速な初動対応という三本柱を意識した取り組みが求められます。特に、利用者が頻繁に触れる場所や食品を扱うスペースでは、衛生管理の精度がそのまま感染リスクに直結します。
本コラムでは、冬に感染症が拡大しやすい理由を整理し、現場で見落とされがちな感染ルートを解説したうえで、基本対策を紹介します。ぜひ最後までご覧ください。
冬はなぜ感染症が拡大しやすいのか
冬季は、インフルエンザやノロウイルスなどの感染症が急増する季節です。これは単なる「寒さのせい」ではなく、複数の環境要因と人間の生活習慣が重なり合うことで、感染リスクが高まる構造的な問題です。衛生管理に携わる人々にとって、この背景を理解することが、現場での対策を最適化する第一歩となります。以下では、冬に感染症が拡大しやすい要因を整理し、どのようなリスクが生じるかを詳しく解説します。
湿度低下とウイルス生存時間の延長
冬は空気が乾燥しやすく、暖房使用によって室内の湿度も低下します。湿度が40%を下回る環境では、インフルエンザウイルスなど一部のウイルスの生存時間が延びることが知られています。乾燥した空気中では飛沫が微細化して長時間浮遊し、咳やくしゃみによる拡散範囲が広がります。
また、湿度が低い環境ではウイルスの外殻(カプシド)が安定しやすく、感染力を長く保持します。インフルエンザは湿度が高い環境では数時間で不活化されることもありますが、乾燥下では数日間生存する場合もあります。ノロウイルスは空気湿度よりも表面環境で長期間生存するため、接触感染のリスクが高まる点に注意が必要です。ウイルスが残留しやすい冬季は、清掃現場では加湿や定期的な清拭が欠かせません。
人の動きが“密”になりやすい季節的要因
冬は寒さのために窓を閉め切ることが多く、換気量が減少します。その結果、室内の空気が滞留し、飛沫やエアロゾルが長時間残留します。特にオフィスや商業施設では循環型空調が多く、同じ空気が繰り返し利用されるため、感染拡大のリスクが高まります。
さらに、冬忘年会や新年会、学校行事など人が集まる機会が増えることで接触機会が増加します。こうした「人の密集」が起こる場所を事前に把握し、清掃頻度を増やすことが重要です。例えば、会議室や宴会場では使用後すぐに環境清拭を行うことで、次の利用者への感染リスクを減らすことができます。
手指の乾燥と皮膚バリア低下
冬は手指の乾燥が顕著で、角質層にひび割れが生じやすくなります。皮膚バリアが低下すると、ウイルスや細菌が付着・残留しやすくなり、感染リスクが増大します。特に清掃業務では、水や洗剤を頻繁に使うため、手荒れが進みやすい環境です。
このため、ハンドソープの選び方がリスクコントロールに直結します。強い洗浄力を持つ石けんは汚れを落とす効果が高い一方で、皮膚の油分を過剰に奪い、バリア機能を低下させる可能性があります。現場では「殺菌効果がありつつ、皮膚に優しい」製品を選ぶことが重要です。例えば、無香料で低刺激性の殺菌石けんは、食品を扱う現場や医療施設で特に重宝されます。
施設内で“感染ルート”になりやすい場所とは
感染症が拡大する背景には、施設内の「人が触れる場所」や「衛生管理が難しい場所」が大きく関わっています。これらの感染ルートを正しく理解し、重点的に対策を行うことは、施設全体の安全性を守るうえで欠かせません。以下では、現場で特に注意すべき感染ルートを整理し、それぞれのリスクと対策を解説します。
高頻度接触部位(High Touch Surfaces)の盲点
施設内で最も感染リスクが高いのは「高頻度接触部位」です。ドアノブ、エレベーターボタン、カウンター、POS周辺など、利用者やスタッフが繰り返し触れる場所は、ウイルスや細菌の温床となりやすいのです。
特に見落とされがちなのが「テーブルの拭き残し」です。表面全体を拭いたつもりでも、角や縁、装飾部分に汚れやウイルスが残ることがあります。さらに、アルコールや除菌剤を使用しても、十分な接触時間が確保されなければ効果は半減します。「拭き方の精度」や「薬剤の接触時間」に注意を払い、見た目の清潔さだけでなく科学的に有効な清掃を徹底する必要があります。
嘔吐物・体液を介した二次感染の危険性
ノロウイルスは、わずか10〜100個程度の粒子で感染が成立すると言われるほど、非常に強い感染力を持っています。嘔吐物や体液が床や什器に付着した場合、その微量な残留物からでも二次感染が発生する恐れがあります。
さらに、嘔吐物の飛散範囲は想像以上に広く、1.8m〜3mに及ぶことが報告されています。つまり、目に見える汚れだけを処理しても、周囲の床や壁、家具にウイルスが残留している危険性が高いのです。「汚染範囲を広めに設定する」ことを基本とし、専用の処理剤やマニュアルに基づいた対応を行う必要があります。初動対応の遅れや不十分な処理は、施設全体の集団感染につながりかねません。
キッチン・食事提供スペースの衛生リスク
食品を扱うスペースは、感染症対策の中でも特に重要なエリアです。手指衛生の質がそのまま食品安全に直結するため、清掃の作業精度が利用者の健康を左右します。
食品を扱う現場では、香料入りの石けんが食品に匂い移りする恐れがあり、衛生管理の観点から適切ではありません。そのため、無香料で殺菌効果のある石けんが求められます。さらに、殺菌効果のない一般的なハンドソープでも、流水と併用すれば物理的にウイルスを洗い流す効果はありますが、確実性を高めるためには殺菌成分を含む製品が望ましいとされています。「食品衛生に適した石けん」を選定し、スタッフに徹底して使用させることが、感染症対策の基本です。
また、食事提供スペースでは「調理器具や配膳台の拭き残し」も感染ルートとなります。特にステンレスやプラスチック製の表面はウイルスが長時間残留するため、洗浄と除菌を組み合わせた清掃が不可欠です。

感染症対策の基本:手指衛生と環境清拭の重要性
感染症対策の現場で最も重要なのは「基本の徹底」です。どれほど高度な設備や薬剤を導入しても、手指衛生と環境清拭が不十分であれば、感染拡大を防ぐことはできません。
石けんと流水が“最強の基本対策”である理由
アルコール消毒は即効性があり便利ですが、すべての場面で万能ではありません。特にノロウイルスはアルコールに対して抵抗性があるため、流水と石けんによる物理的な洗浄が最も効果的とされています。石けんの界面活性作用によってウイルスや細菌を皮膚表面から剥離し、流水で物理的に流し去ることで感染リスクを大幅に低減できます。
ただし、アルコールはインフルエンザウイルスや多くの細菌に対しては有効であるため、「ウイルスの種類によって有効性が異なる」ことを理解し、適切に使い分けることが重要です。
さらに「殺菌成分を含む石けん」を選ぶことで、洗浄と同時に微生物の不活化を補助できます。食品を扱う現場や医療施設では、無香料かつ殺菌効果のある石けんが推奨されます。ただし、通常の石けんでも十分な流水と併用すれば感染予防効果は得られるため、現場に応じて適切な製品を選定することが大切です。
環境清掃では“洗浄+除菌”を同時に
環境清掃の目的は見た目の清潔さだけでなく、感染源を減らすことにあります。そのため「洗浄だけ」では不十分です。汚れを落とすことは見た目の清潔さを保つうえで重要ですが、感染症対策の観点では「微生物を減らす」ことが不可欠です。洗浄と除菌を同時に行うことで、感染源を根本から断つことができます。
例えば、ドアノブや手すりなどの高頻度接触部位では、除菌効果のある清拭剤を用いることで、作業効率と衛生効果を両立できます。ただし、食品接触面では製品の使用条件を確認し、食品衛生法に適合したものを選ぶ必要があります。
感染症対策は“初動の速さ”がすべて
嘔吐物や体液が発生した場合、初動対応の遅れは感染拡大に直結します。ノロウイルスは微量でも感染が成立するため、処理の遅れや不十分な対応は施設全体の集団感染につながる危険があります。
現場でミスが起こる理由の一つは「マニュアル不足」です。処理方法がスタッフごとに異なると、汚染範囲の見落としや薬剤の使用不備が発生します。そのため、嘔吐物処理や体液対応の手順を明確にマニュアル化し、必要な資材を常に備蓄しておくことが重要です。例えば、専用の処理剤や吸収材を常備し、スタッフが即座に対応できる体制を整えることで、感染拡大を防ぐことができます。
現場で役立つ感染症対策アイテム
アルボース【アルボース石鹸液 i G-N】
無香料×殺菌力──食品現場に最適な植物性手洗い石けん化
純植物性で手肌にやさしく、洗浄と同時に殺菌成分による補助的な消毒効果を持つ医薬部外品の石けん液です。7〜10倍に薄めて使用する濃縮タイプで、コストを抑えつつ安定した衛生管理が可能。無香料処方のため、食品・飲食関係の現場に適しています。超微細な泡立ちで汚れをしっかり浮かせ、作業前後の手指衛生を確実にサポートします。

サラヤ【シャボネット石鹸液 ユ・ム】
無香料・植物性・高希釈──環境にやさしい殺菌手洗い石けん
手洗いと同時に殺菌成分による補助的な消毒が可能な植物性薬用石けん液。無香料で食品を扱う現場に向いており、排水後は微生物が分解しやすい環境配慮型処方です。7〜10倍に薄めて使える希釈タイプのため経済的。毎日大量に使用するキッチンや清掃現場でも、コストを抑えながら安定した衛生管理を実現します。

東栄部品【ハイプロックスアクセル】
拭くだけで“洗浄+除菌”完了──医療レベルの感染対策クリーナー
除菌と洗浄を一度で行える、医療現場でも使用されるホスピタルグレードの除菌洗剤です。ノロウイルス・インフルエンザをはじめ幅広いウイルス・菌に対応可能ですが、適切な濃度と接触時間を守ることが効果発揮の条件です。拭き取り後の“すすぎ不要”で作業効率が大幅アップ。使用後は水と酸素に分解されるため残留性がなく、環境にもやさしい処方です。1:16〜64の幅広い希釈で用途に合わせて使いやすいのも特長です。

共栄【ノンゲーロ】
ふりかけて瞬間凝固──嘔吐物処理を安全・迅速に
嘔吐物やこぼれた液体にふりかけるだけで、瞬時に固めて処理できる凝固剤です。臭気と水分を素早く吸収し、二次汚染を防ぎながら安全に回収可能。鉄道・飲食店・学校・病院など幅広い現場で採用されており、ノロウイルスなど感染症流行期の初動対応にも欠かせないアイテムです。
ただし、処理後は専用の廃棄手順(密閉袋で廃棄など)を守ることが重要です。掃除機での吸引は感染拡散のリスクがあるため、推奨されない場合もあります。現場では「凝固剤で固める→専用袋で密閉廃棄」という流れを徹底することで、安全性が確保されます。

まとめ
冬場は湿度低下や人の密集、手指の乾燥といった複合要因によって、感染症が拡大しやすい環境が自然に形成されます。施設内ではドアノブやエレベーターボタンなどの高頻度接触部位、嘔吐物や体液を介した二次感染、そして食品を扱うスペースなどが特にリスクの高いポイントです。
感染症対策の基本は、
- 手指衛生の徹底
- 環境清拭の質向上
- 初動対応の迅速化
という三本柱に集約されます。これらを徹底することで、施設全体の衛生レベルを高め、感染拡大のリスクを最小限に抑えることが可能です。
さらに、現場に適した道具を選ぶことが、対策の実効性を高める鍵となります。食品現場に適した無香料・殺菌石けん、環境清拭に有効な医療レベルの除菌クリーナー(濃度と接触時間を守ることが条件)、そして嘔吐物処理を安全に行える凝固剤など、用途に応じた製品を正しく導入することで、清掃業務は「感染症対策の最前線」として機能します。
最後に、感染症対策は一人の努力ではなく、施設全体で取り組むべき課題です。マニュアル化、動線に応じた物品配置、スタッフ教育を継続することで、冬場の感染リスクを大幅に減らすことができます。
当社では本コラムで取り上げた商品以外にも、さまざまな清掃・衛生資材を取り扱っております。「用途に合う商品が知りたい」「現場に最適な提案を受けたい」といったご相談にも対応可能です。ECサイトに未掲載の商品もございますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。最後までご覧いただきありがとうございました。



