
夏場になると、清掃現場では粘着性の汚れが急増します。代表的な例としては、床にこびりついたチューインガムやカーペットに染みついた接着剤、ガラスや什器に残ったテープ跡、さらには油性ペンの落書きなどです。
特に夏場は、気温の上昇によって粘着物が柔らかくなり、床面や繊維に深く浸透・密着するため、通常よりも除去が難しくなります。屋外のアスファルトや石床では溶けて広がり、カーペットでは繊維の奥に染み込み、表面処理だけでは汚れが取りきれない状態になることも。
本コラムでは、夏に増える粘着汚れの「原因」と「リスク」を整理したうえで、素材や汚れに応じた正しい除去方法やおすすめのガム落としアイテムをご紹介します。ぜひ最後までご覧ください。
夏に粘着汚れが増える理由
夏場に粘着汚れが目立つのは偶然ではありません。高温によってガムや粘着剤が軟化・流動化し、床材やカーペットに深く入り込みやすくなるためです。さらに湿度の高さがその浸透を助長し、繊維の奥や床材の細かい凹凸にしみ込んでしまいます。
見た目の問題だけでなく、放置すると衛生リスクも深刻です。例えばカーペットに残ったガムやジュース混じりの粘着汚れは、細菌やカビの繁殖源となり、場合によっては害虫を誘引します。商業施設やホテルにおいては、たった一つの放置された粘着汚れがクレームや衛生上の事故につながる危険性すらあるのです。
また、粘着物は時間の経過とともに酸化や硬化が進み、さらに落としにくくなります。数か月放置された汚れは表面が黒ずみ、通常の溶剤処理では歯が立たなくなることも少なくありません。
粘着汚れを落とす3つの原理
粘着汚れを除去する方法は、大きく分けて「冷却」「溶解」「中性・分散」の三つに整理できます。
溶解方式
化学的に粘着剤を分解するアプローチです。アクリル系やゴム系の粘着剤は「非極性溶剤」に可溶であり、柑橘系溶剤(d-リモネン)や石油系溶剤を使えば、テープ跡や油性ペンのバインダーを分解して浮かせることができます。ただし溶剤には引火性や臭気、床材を白化させるリスクがあり、換気と事前テストが必須です。
冷却方式
ガムやチョコレートのように柔らかい汚れを一気に凍らせて脆くし、スクレーパーで割り取る手法です。即効性があり、臭いもなく安全なため駅構内や学校など人通りの多い場所で重宝されます。ただし、残渣が残りやすいため、二次処理として溶剤や中性剤を組み合わせるのが理想です。
中性・分散方式
粘着剤を強制的に溶かすのではなく、軟化させて界面活性剤の働きで汚れを「浮かせて移動させる」アプローチです。安全性が高く、幅広い素材に対応できるためホテルやオフィスカーペットなどデリケートな環境に適しています。頑固な汚れには時間がかかりますが、「素材を守る」観点では最も安心できる手法といえます。
床材・素材別の適切な対応
実際の現場では「どの素材にどの方式を適用するか」が成否を分けます。たとえばガラスと塩ビタイルでは、同じ粘着汚れでも適用できる薬剤や方法がまったく異なり、誤った判断は白化や変色といった高額な補修リスクにつながります。ここでは、カーペット・塩ビタイル・石材・木材といった代表的な素材ごとに、粘着汚れを安全かつ確実に落とすための実践的なアプローチを解説します。
カーペット
ナイロンやポリプロピレンの繊維に溶剤が残ると、臭気や変色の原因になります。そのため、冷却処理や中性剤での除去が第一選択肢となります。よく使われるのは、冷却後にスクレーパーで大きな塊を取り除き、残った粘着を中性剤でウエスに吸わせる方法です。
塩ビタイル
テープ跡を溶剤で一気に落とそうとした結果、表面が白化し全面補修となった事例があります。塩ビは特に「溶剤の点付け・短時間処理」が鉄則。焦って広範囲に使うのは禁物です。
石材
御影石や大理石は酸性・アルカリ性の薬剤に弱く、短時間でも表面が荒れて光沢が失われることがあります。石材では中性の薬剤を慎重に使い、必要に応じて専門研磨業者との連携を検討すべきです。
木材
落書き跡などに対して溶剤を広範囲に使うと、塗装面に浸透して剥離や白化を引き起こします。必ず点付けでごく短時間だけ処理し、広がらないよう注意が必要です。失敗すると全面塗り替えを余儀なくされる例も少なくありません。
よくある失敗とリスク
粘着汚れの除去で最も多い失敗は「焦って溶剤を多用すること」です。塩ビタイルの白化やワックス層の劣化はその典型で、一度起きてしまえば補修は高額になります。
また、カーペットでは乾燥不足によって溶剤が繊維内に残留し、カビの繁殖や臭気トラブルを招くこともあります。さらにスクレーパーの使い方を誤れば、金属什器やガラス面に細かな傷を入れてしまうことも。清掃現場では「一度の判断ミスが数十万円の補修費に直結する」という意識を常に持つことが重要です。
素材と汚れに応じて選ぶ、ガム落とし
ダイカ商事【DAIKA ガム落とし】
頑固な粘着汚れを強力分解
柑橘系溶剤をベースにした強力な溶解タイプ。ガムやテープ跡、シール、油性ペンなど幅広い粘着汚れに対応できます。大容量サイズでコストパフォーマンスに優れ、大規模施設や学校・オフィスビルなど、同じ汚れが大量に発生する現場で活躍。柑橘系の香りで溶剤特有の刺激臭を軽減し、作業者にも優しい設計です。ただし強力な分、素材によっては白化のリスクがあるため、必ずテスト使用を推奨します。

《対応汚れ》
ガム、テープ跡、シール、油性ペン、クレヨン
《対応素材》
石材、金属、ガラス
リンレイ【ガムリムーバー】
凍結硬化でスピーディーに除去
冷却方式を採用し、粘着汚れを瞬間的に凍結・硬化させてスクレーパーで除去。ガムやチョコレートなどを短時間で処理できるため、駅構内や学校、商業施設など「人が多く、スピードが重視される現場」に最適です。溶剤を使わないため臭気が残らず、繊維や素材を傷めにくいのも特徴です。
ただし、凍結後は物理的に削る作業が必要で、細かい残渣処理は別工程になる場合があります。

《対応汚れ》
ガム、チョコレート、飴などの有機物系粘着汚れ
《対応素材》
カーペット、繊維素材、石材、床材
ミッケル化学【ガム落し】
素材に優しい中性速効タイプ
中性設計で素材を傷めにくく、特殊溶剤が粘着物をすばやく軟化・溶解。ホテルや商業施設のカーペット、什器、木材家具など、デリケートな素材が多い現場に適しています。ウエスに浸して転写するだけで作業でき、施工者への負担も軽減。安全性と効率性を兼ね備えた万能型です。ただし厚く硬化した粘着には複数回の処理や物理的補助が必要になる場合があります。

《対応汚れ》
ガム、テープ跡、軽度の粘着残渣
《対応素材》
カーペット、木材、什器、石材
商品名 | 方式 | 特徴 | 適した現場 | 注意点 |
---|---|---|---|---|
ガム落とし 【ダイカ商事】 | 柑橘系溶解 | 強力分解・大容量・柑橘香 | 商業施設、学校、オフィス | 換気必須、塩ビ床の白化リスク |
ガムリムーバー【リンレイ】 | 冷却 | 即効・無臭・安全 | 駅構内、学校、短時間処理 | 削り残し処理が必要 |
ガム落し 【ミッケル化学】 | 中性溶解 | 素材に優しい・速効 | ホテル、什器、デリケート素材 | 頑固汚れは複数回必要 |